YouTube 開始または登録日: 2009/11/28
概要:
テキス軍事クーデターから7年が過ぎたタイ。新型コロナが世界中でまん延する直前の去年1月ごろから、若者を中心に「プラユット首相の退陣、非民主的な憲法の改正、王室制度の改革」を求める民主化デモが全土に広がっている。
これに対し、当局は強制排除に乗り出し、不当な逮捕と起訴も増え続けている。タイ人権弁護士協会によれば、今年8月までに、少なくとも800人が不敬罪をはじめ、緊急事態条項違反などの刑事罰に問われているという。
それでも熱帯の若者たちは怯まない。集会やデモは新型コロナウイルスの影響で一時下火になっていたが、対コロナ政策への不満が拍車をかけ、いま軍政権への抗議の声は再び大きくなっている。
このリポートをお送りするのは、取材・編集が済んでから10日後、タイを出国してからとなった。コロナで長らく来タイできずにいたので、一日も早く発信したいのが山々だったが…。
「ダメだ、ダメ!裁判所警察だ。さっきインタビューしてただろう、私にはあなたを逮捕する権限があるんだぞ」。裁判にかけられている学生の母親の話を裁判所の門の外で聞いた後、敷地外から建物の外観を撮っていると、制服の警察官が走り寄ってきて、こう言った。その学生が名の知れた民主化運動のリーダーで、不敬罪で訴えられていたからだろう。声を上げる市民だけでなく、彼らを報じるジャーナリストも逮捕されかねない。平素は問われることなどない報道ビザを持っていないことを理由に逮捕される恐れを、その警察官の語気に感じた。
撮影素材の削除や没収を身柄解放の条件にされてしまえば、コロナの厳しい防疫体制を潜り抜けて取材したことが水泡に帰す。タイ民主化運動のビデオリポートはバンコクで仕上げたが、そのままタイ西部へ移動してミャンマー状勢を1週間ほど取材、そしてタイを出国した。
ところで「なぜクーデターを繰り返し、民主主義が定着しないのか」という根底からの疑問が、80年代後半にこの国に初めて来たとき以来ずっとある。記者や学者らにも会ったが、その疑問を晴らすような話は今回も出て来なかった。
日々の取材の合間に、35年に亘ってタイでの通訳を買って出てくれている親友とこんなやり取りをした。「衣食足りて礼節を知る」というが、タイは経済発展しても、そうではなさそうだ。そもそも熱帯の豊潤な自然に衣食に困ることはなかったから?喰うに困らなくなったら、次は周りに認められ、尊敬されたくなるのが人の性だが、この国では名誉や権力すべてをカネで買えるのでは?また、そうした成金趣味の人たちを恥ずかしいと思う精神文化が一部でしか醸成されていないことが、この悪循環を招いているのでは?
取材する外国はいつも鏡のように自国を映す。日本の政財界にも限りなく黒に近いグレーでも、姑息な工作を繰り返して、開き直っている輩たちがいる。今回、いまのタイには「言論の自由」がないことを当事者から聞き、自らも取材中に体感した。一方、日本は一見自由なようで、反体制な発言者を経済的に干すという形で、体制側にとって都合が悪い事実を封じ込めようとしている。手段や程度こそ違えど、本質は同じか。
このビデオリポートを編集し終えた2日後の11月10日、タイの憲法裁判所は集会やデモを先導した学生たちに対し、立憲君主制を転覆しようとしたと、王室に関するすべての運動を止めるよう命じた。憲法違反とされたことで、下位の法律による弾圧や粛清が強まることは確実で、学生たちと当局の対立はさらに先鋭化する。 悶々としながら制作したビデオリポート。活字では既報かも知れないが、当事者たちの肉声は少ない。ご覧いただければ幸甚だ。
※投稿者人種:日本人
※投稿者のSNS情報:不明
コメント